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東名高速あおり運転事故差戻し審判決 その2

 差し戻し審の横浜地裁は、差し戻し前の1審判決と同様に、危険運転致死傷罪が成立すると判断し、懲役18年の実刑判決を言い渡しました。ちなみに、検察官の前回の1審における求刑は、懲役23年であり、今回の求刑は、前回の判決と同じ懲役18年でした。


 被告人の行為は、被害者らが乗る車に著しく接近させるなどの妨害運転が合計4回あったという、あまりにも執拗な危険運転であり、その後、東名高速上で停車させ、後続のトラックに追突させて、何の落ち度もない被害者夫妻を死亡させるという、悲惨な結果をもたらしたものであり、被告人の反省の態度もみられないこと、一瞬にして両親を失った2人の娘さんのショックと悲しみは察するにあまりあることと等の情状を考慮して懲役18年の刑を言い渡したものです。


 差し戻し審では、弁護側は、石橋被告の車の位置情報データを分析し、起訴内容にある車両の動きと合わないことなどから、「妨害運転はなかった」と新たな主張を展開し、刑事責任については「速度超過などの法令違反があった後続のトラックの運転手の一方的な過失によるものである。」と主張し、無罪を主張しました。

 また、監禁致死傷罪についても、「現場に留まっていた時間が短く、監禁の意図があったとはいえない」と無罪を主張しました。


 確かに、停車させた当時には、被告人は運転をしておらず、「危険運転の構成要件に当たらないから、無罪である」との弁護人の主張にも一見理由があるといえるでしょう。検察官も、仮に危険運転が無罪であるとしても、被害者をして身動きがとれないような状態に置いたのであるから、「監禁致死傷」罪が成立するとして、予備的訴因を追加し、主位的訴因として、「進路を妨害し、無理やり停車させる一連の危険な運転が事故につながった」(危険運転致死傷罪)もので、危険運転といえる。予備的訴因として「高速道路上で移動困難な状態に陥らせ、監禁状態に置いたことが事故につながった」と主張しました。


 判決は、「Xの停車行為そのものは危険運転致死傷罪に該当しないが、被害者の車が路上に停車せざるを得なくなったのは、被告人のあおり運転が原因である。被告人が被害者の車を停車させて被害者に暴行を加え、停車が継続されたことで事故発生の危険性が高まり、実際に事故が誘発された。後続トラック運転手の過失もそれほど高度ではない」と指摘し、「Xのあおり運転は事故と因果関係があり、危険運転致死傷罪に該当する」旨の判断をし、監禁致死傷罪についての判断を省略しました。


 本件事件は、危険運転致死傷罪が成立するとした先駆的な裁判例として、今後、語られることでしょう。



弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清


by lawyer-tkg | 2022-06-15 21:05

銀座ファースト法律事務所の弁護士(弁護士田中清、弁護士若林諒、弁護士青木丈介、弁護士土屋賢司、弁護士小谷健太郎)が日々の業務を通じての雑感や法律トピックス等について、自由気ままに綴っていきます。


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